ママはなぜ子供を比較をするの?【公認心理師】が心理学的視点から解説

子育てをするママ達は、子どもの成長具合をマイルストーン(成長の指標)と我が子の成長具合を比べてみたり、公園や子どもの遊び場で出会う月齢の近い子どもと我が子を比べてみたり、ママ友と自分自身を比べて、周りのママはもっと笑顔で子育てをちゃんとしているのに!と思ってみり、何かにつけて「比較」をしています。

人間はどうして比較をするのでしょう。そして、比較をすることが子育てにどう影響しているのでしょうか。

こちらの記事では、比較をすることについて心理学視点からお伝えします。

なぜ人は比較をするのか

比較 1950年代にアメリカの心理学者Festingerが、自分と他人を比較することについて、「社会的比較過程理論」と定義して次のようにまとめています。

  1. 人間は自分の意見や能力を評価したがっている
  2. それらが客観的に評価できないときには、周囲の人との比較によって評価しようとする
  3. 自分と似ている人が、比較対象として選ばれやすい

社会生活を行う上で、自分を知る、自分の置かれた状況を知ることは大切なことです。ママにとっては、自分のこと同様に、赤ちゃんや子どものことも評価したくなりますね。自分や子どもの意見や能力がどうなのであるのか、ということを評価するときに、客観的に評価が出来ればまずそれが気になります。

赤ちゃんの定期健診は客観的評価になりますね。そこで、順調に成長しているということがわかるとママも一安心。1歳になるまでは、定期的に検診などがありますが、1歳を過ぎるとそのような機会もぐっと少なくなります。そこで、マイルストーン(成長の目安)などを育児書やネットで検索して、我が子の成長が正常の範囲内なのかなどを気にしたり、月齢の近いお友だちと遊ぶときに、その子の成長と比較したりすることがあります。

これが、客観的に評価できない時の「周りの人と比較する」ことですね。そして、6カ月の我が子と9カ月のお友だちよりも、同じ6カ月か、近い5か月や7カ月のお友だちと比較するのは、「自分(子ども)と似た人が、比較対象になりやすい」ということに当てはまります。

つまり、私たちは社会の中で生活する上で、自分は子どもを評価するために周りの人と比較することを繰り返している、ということになります。

上方比較と下方比較

比べる 人は比較をする時に、自分と似ている人が比較対象として選ばれやすい、ということでしたが、必ずしも自分と似ている人ばかりと比較するわけではありません。

子どもが、少し年上のお兄さんやお姉さんが大好きで、何でも真似をしたがるように、自分よりも少し優れた人と自分を比較して、刺激を受けることによって、自分自身の能力やスキルを向上させていくような比較を「上方比較」といいます。

また、自分よりも不幸な人や、不運な人と比較することによって、自分はまだ幸せであるといったように思うような比較のことを「下方比較」といいます。 公園やスーパーですごい癇癪を起しているよその子どもを見ると、「うちの子はあそこまではない。まだマシだわ。」と内心ちょっとほっとする、そんな気持ちもこの下方比較によって生じている感情ですね。

これらの上方比較や下方比較によって、人は自尊感情を高めたり、もしくは低下させないようにしているのです。

幼少期の子どもが行う比較

Suls & Mallenによると、幼少期の子どもが社会的比較を行うのは、自己評価が理由になっているのではなく、周りの人と同じ行動をとったり、自分が適切な行動をとるために比較を行っているということです。

子どもは、自分のことを客観的に捉えることがなかなか出来ません。自分が行っていることが、妥当な行動なのであるのかどうかを、周りと比較することによって気づき、学ぶことがたくさんあります。 皆が座っている時に、一人歩きまわっているのは違うと気づくことで、その時にはどんな行動が適切であるのかを学習することに繋がっていきます。

このような、規範学習のための比較は、幼少期だけではなく、成人した大人も行っていることです。

比較をよくする人

社会的比較とパーソナリティの関係性に関する研究によると、「自分を私的、公的ともに意識することが多く、他者との親和や協調を重視する日本文化に一般的な相互協調的自己感の高い人が、他者との比較の志向性が高い」と言われています。

つまり、周りと「協調して」とか「仲良く」ということを大切にする日本社会の中で育つ私たちというのは、他者と比較をしやすい傾向がある、ということです。

また、「自尊感情が低く、抑うつ傾向が高く、神経症傾向の高い人が、社会的比較志向性が強い」ということも言われています。

日本文化の影響を受け、他者と比較をしやすい傾向にある私たちは、自尊感情を高くすることや、心の健康度を高めることによって、比較をしすぎないようになることもできそうですね。

ママがやりがちな「比較」のケース

ここからは、子育てママがよく行いがちな「比較」について、次の3つのシーン別にみていきましょう。

子どもを兄弟や子どものお友だちと比較

子どもが2人以上いる家庭では、兄弟姉妹同士の比較。また、年齢や月齢が近いお友だちとの比較。これは無意識のレベルでよく行っていることです。

  • お兄ちゃんお姉ちゃんがこの月齢の時にはハイハイをしていたのに、まだしない。
  • お誕生日が2週間さのお友だちがもう伝い歩きをしているのに、うちの子はまだズリバイ。
  • いつも公園で遊んでいるお友だちはもう50まで数が数えることを知って、ショック!

このように思ったエピソード、少し思い返してみるだけでもいくつでも出てくることでしょう。 子どもの成長過程が気になる、子どもの能力を知りたい、などといった動機が根底にあるのかもしれません。子どもの成長が、順調であるかを知るために、兄弟や他の子の同じような月齢の時と比べてみる、それがついついママがやることです。

子どもを他の子どもと比較したくなるのは、仕方のないことではあるものの、比較をすることによって、子どもにどんな影響があるでしょうか。

ママの頭の中、気持ちの中だけでその比較をとどめておくのであればいいですが、子どもへの伝え方によっては、子どもの自尊心を低下させてしまうこともあります。

「お兄ちゃんは、幼稚園に入るころにはひらがなが全部読めていたのよ。」 「○○くん、もう三輪車がこげるんだって。すごいね。」

ママが何気なく言ったその言葉も、もしかしたら子どもは傷ついているかもしれません。子どもはプライドが高いので、自分が出来そうだと思ったことには挑戦しますが、自分の能力とかけ離れていることには挑戦しようと思わないのです。

また、他の誰かが出来ていることを自分も出来るようになりたい、とモチベーションに繋がることは悪いことではありません。刺激を受けて自分で出来るようになりたいと思い成長するの良いことです。しかし、この「何かを出来るようになりたい」と思う動機が、いつも誰かとの比較になってしまうことはよくありません。お友だちや兄弟がしていないことに挑戦することがなくなり、選択肢が狭まるからです。

これらの理由から、ママが子どもの成長を促すための声掛けとして比較をするのは、ちょっと前の子どもと今の子ども、もしくは、今の子どもとちょっと成長した子どものどちらかにしたいですね。

「枠からはみ出さずに、キレイに塗れたね。」 「横線がまっすぐ、かっこよく描けるようになったね。」 などと、子どもが出来るようになったことを具体的に示すことによって、子どもは自分に自信をもち、ますます成長します。

ママ自身が、他のママと自分を比較

子育てが楽しいと思えている時には、そんなに気になることはありませんが、自分の子育てにゆとりが無くなってきたりする時。

公園で、派手に汚して思いっきり遊んでいる子どもを大らかに見守っているママ友を見ると、「私だったら、あんなに洋服汚されたら、笑って見守ることなんて出来ないわ。」と思うママ。

お友だちのお家に遊びに行くと、お家がとても綺麗に片付いていてピカピカ。大人だけの生活をしているかのように、オシャレで綺麗な家に、手作りお菓子。いつもにこやかにしているママ友を見て、片付いていない自分の家やお菓子を作るゆとりなんて微塵もない自分に落胆してしまうママ。

家の中に子どもと二人きりでいることも辛いけど、外に遊びに出て、他のママが自分よりももっと子どもに優しく、大らかに、いつも笑顔で接しているのを見て、イライラばかりしてしまう自分に自己嫌悪になるのも辛い。

このように自分とママ友との比較をして、苦しくなっているママがたくさんいます。 自分に自信がない時、もしくは、自分がダメな母親だと思っている時、人はその考えを正当化する証拠探しを無意識のうちにします。そして、自分に都合の良い証拠を集めて、「やっぱり私の考えは正しい。」と結論づけたります。

つまり、「私はダメな母親」という考えがある時は、自分のダメなところばかりに目がいっていますし、相対的に「自分がダメ」を証明するために、「素敵なママ」を見つけては、その良いところばかりが目に付くものです。

自分に自信が無くなっている時ほど、他のママ友と自分を比較して、ますます自己嫌悪に陥るママは、その根底に「私はダメ/まだまだ」といった考えがあるので、無意識のうちにそれを証明する証拠探しばかりをしてしまっているのかもしれません。

そして、外ではにこやかにいつも笑顔のママ友も、疲れている時もあれば、体調が悪い時もあります。そんな時は外に出ていないだけかもしれません。

周りのママの素敵なところをどんどん吸収しよう!というポジティブな気持ちからの比較の時は良いですが、自分がネガティブになっている時には、意識的にママ友との比較はストップするようにしてあげたいですね。

ママが職場での自分と家庭での自分を比較

職場ではバリバリ働いて、計画的に要領よく仕事をこなすママ。 そんなママでも、子どもの行動は予想外のことがたくさん。色々と想定しているのに、いつも想定外のことが起こり、計画通りに進められない育児や家事に、自分の能力がないのではないかと、育児に自信がなくなるママ。

仕事で子どもを相手にするお仕事をしているママにとてもよくあるのが、仕事では出来ていることが、家庭では別。全然上手くいかない自分にイライラ。そして周りからは、「プロだから、子育てに悩みなんてないんでしょ。いいわね。」といった大勘違いをされて。それもプレッシャーに感じるママ。

子育ては仕事のようにはいきません!

そして人間だれしも、自分のことや子どものこととなると、感情が大きく関わってきます。感情とは、人生を彩る素敵な要素ではありますが、「効率的」「理性的」などの言葉とは離れていってしまいます。

例え保育のプロの保育士さんであっても、我が子の保育に手を焼くことはたくさんあります。経験が自分の育児に役立つこともたくさんありますが、経験が逆に「いつもはこの手で対応できるはずなのに…」と返って気持ち的焦りにつながることもあります。

部下を何十人も育ててきたバリバリのキャリアウーマンでも、保育のプロでも、幼児教育のプロでも、「ママ」はまだ子どもの月齢と同じだけしか経験がしたことがありません。

そして、経験年数が増えても、直面する課題は刻々と変化します。 さらに、二人目、三人目育児のママでも、子どもが違えば悩みも違います。

完璧をもとめずに、そこそこでいい 子育てはママが失敗をした方が子どもが伸びる

そんな言葉を頭の片隅おいて、子どもとの時間を楽しむことを大切にしていってあげたいですね。

まとめ

比較をすることには、日本文化の影響や心理学的理由などがあることがわかりました。その一方で、比較することによる影響もあります。意識していいないと、ついついやりがちなことだからこそ、学んだ知識しっかりとお子さんとの生活に活かしていってあげたいですね。

【考文献】

吉川裕子・佐藤安子 対人比較が生じる仕組みについての心理学的検討 2010年度 心理しゃきあ的支援研究 増刊号、41-53

ABOUT US
久保田 由華心の相談室 こころラボ 代表
公認心理師、臨床心理士。
NY州立大学にてメンタルヘルスカウンセリングの修士号修得。NYCのNPOにてアシスタントサイコロジストとして勤務後帰国。
大学、クリニック、心理相談室等で勤務。
これまでに9500ケース以上のご相談を担当。

心の相談室こころラボを設立し、カウンセリング以外にも子育てママのためのセミナーやスクール、ママのためのオンラインコミュニティを運営。
その活躍からメディアからの取材や出演多数