今、教育現場ではヴィゴツキーの社会構成主義が重要視されています。これはビジネスシーンで企業が取り入れることの多い、比較的新しい概念のこと。
一見子育て中ママ達とは関連のない言葉に思えますが、実は子どもを「自由に」「尊重しながら」育てるために大切な考えです。
「なんだか難しそう…」と手の出しにくさを感じるママに向けて、今回はヴィゴツキーの社会構成主義を分かりやすく解説します。子育てに役立つ心理学を一緒に勉強していきましょう。
ヴィゴツキーの社会構成主義とは?
ヴィゴツキーの社会構成主義とは、「人間が認知するために世界の人、物や事象が存在する」という考え方を指します。なんだか難しい考えですが、例えば「Aさんは優しい人」というのは、誰かが「Aさんは優しいな」と考えたからこそ生まれた概念という意味です。
人の思い込みや周囲の評価に惑わされず、適正に人を判断するビジネスシーンや、たくさんの子が一緒に生活する学校などの教育場面でよく使われます。この社会構成主義を知ると、育児に対して柔軟な考えができるため、実は子育てママにも知って欲しい概念です。
社会構成主義はこんな考え
社会構成主義とは、以下のような意味を持ちます。
社会構成主義とは、社会に存在するさまざまな事象は、人間の認知が作り上げるものと捉える概念
社会構成主義とは?企業がアプローチすべき理由や実践ポイントを解説 – ourly Mag.
認知というのは、簡単にいうと「考え方」や「判断」です。よく社会構成主義の概念を説明するときに例えられるのは、
というものです。これは誰しも持っている自分の中の偏見、バイアスが「仕事ができない人」を生んでしまっており、正当な評価ができない分かりやすい例。みなさんも「思い込みで人を評価してはいけない」とこの例を見ると感じることができるでしょう。
こうした思い込みや噂によって不利益を生まないように、今ビジネスシーンでは社会構成主義が見直されています。社会構成主義を理解できると、認知の歪みを少しは和らげることができます。
意識しなくてもついつい起こる「認知の歪み」
ビジネスシーンだけではなく、子どもと暮らす子育ての中にも社会構成主義はよく見られます。
- ○○さんは変なおうちと家族で話していたら、実際には何のおかしな点もないのに「変なおうち」と決めつけてしまった
- ナスビは嫌い、苦い!とママが話したことが子どもに伝わり、ナスビ嫌いになっちゃった
- 「パパはいつも片付けない」とママが子どもに愚痴をこぼしていたら、子どもがパパに懐かなくなった
心当たりのあるママも多いかもしれませんね。
こうした考え方、ついつい起こる思い込みといった「認知の歪み」「偏見」というのは、誰しも持っているものです。しかし、だからといって思い込みのみでさまざまなものに間違った評価を付けるのはおすすめできるものではありません。
大切なのは自分の偏見・バイアスに気付き、正しく物事の本質を見ることです。
社会構成主義と相反する本質主義
社会構成主義には、相反する本質主義という考えがあります。社会構成主義をより知るために、反対の考え方である本質主義について考えていきましょう。
本質主義とは?
本質主義を分かりやすく表現すると、
本質主義では「日本人は勤勉だ」というような人種・民族・性別といったカテゴリーにより、その本質を定義しようとします。
社会構成主義とは?企業がアプローチすべき理由や実践ポイントを解説 – ourly Mag.
となります。人種や民族、性別といった分かりやすい違いによって、「どんな人物か」「どんな事象か」を分類するのがこの考え方の特徴。極端な例でいうと、
- 男の子だからズボンをはこう
- 外国の人だから私達と分かり合えなくて当たり前
- あの子のパパは企業の偉い人だから、あの子は頭がいい
本質主義は先ほど説明した、避けたい「思い込みや噂で何事も決めつける」ことを肯定する考えです。では本質主義は絶対に避け、少しでも取り入れるべきではないかというとこれも違うといえます。
場合によっては分類が必要な場面もありますよね。例えばハンディキャップを持つ子に対して、「特別な分類は本質主義的だからしない」と配慮を怠ると他の子と学力や生活力に差が出てしまいます。最近問題になっている「トランスジェンダーに配慮してすべての性別の境目をなくす」のも、公共の浴場やトイレといった場所では難しいと考えられます。
このように社会では、本質化した区別が必要になる場面も多いです。
最近感じる育児の「今と昔」の違いとは?
社会構成主義とは、説明したように比較的新しい考え方です。ここでママとしてはピンとくるかもしれませんが、育児や教育に関して「今と昔は違う」と感じることもありますよね。
例えば、今教育シーンでよく聞かれる言葉である「多様性」です。多様性を認めるために、社会構成主義にのっとり「何でもしてもいい」「子どもの考えは否定せずすべてを許す」という育て方はやや違和感が残ります。本質主義によって「本質を分類する」「すべてを区別する」というのもやりすぎな印象がありますよね。
多様性とは、ありのままを受け入れるという姿勢です。教育現場では、男の子はブルー・女の子はピンクといった色で分類する場面が少なくなっています。ただ、「じゃあ女の子はブルーで男の子はピンクだと平等である」と極端な配慮はこれも社会構成主義ではありません。女の子でもズボンの制服を着てもよい、と校則が見直されることがありますが、決して「ズボンをはいてくることこそ多様性だ」という意味ではないのと一緒です。
制服のズボンは「はきたいと思う子」ははいてきてもOK。女の子はピンク、男の子はブルーではなく、自分の好きな色を選ぼうというのが多様性です。子どもに対してすべてを自由にさせるのが推奨される育児ではなく、「好きなことや興味のあるものを見つけて、子どもの知的好奇心をサポートする」のが社会学に則った社会構成主義の思う理想的な育児です。
大切なのは「社会構成主義と本質主義のバランス感覚」であり、社会構成主義を理解するためにも本質主義を知ることは重要です。
社会構成主義を実践するには?
新しい概念である社会構成主義。その中身を紐解くと「確かに大切な概念」ということはわかりますが、いざ育児に活かそうとするとどうすればよいのか分かりませんよね。
そこで、この社会構成主義への理解を深めるために、実践する場合のポイントをまとめました。ひとつずつ見ていきましょう。
ママの持つ「子どもに与える影響」の怖さ
育児でよく言われる「親の背中を見て子どもは育つ」。特に一緒に過ごす時間の長いママは、子どもにとって大きな影響を与えます。
これまで説明したように、子どもの中にある偏見や思い込みは、ママの考えによって構成されがちです。反対にいうとママが社会構成主義を正しく理解していれば、子どもも自分の考えが偏らず今を生きる社会性のある子に育ちます。
社会構成主義の根底には「対話」がある
社会構成主義は、根底に「対話」があります。偏見や認知の歪みは誰しも持っているものであるため、その人物や対象に近づき対話を重ねることで、思い込みや評価のエラーを防げます。
そこで、親子の会話を増やしましょう。ママの考えが偏っていれば子どもとの対話で修正できますし、子どもの中にあるバイアスにもママが気付くことができます。子どもを理解するためにも「特別でもない日常会話」は大切なので、会話やコミュニケーションを増やしたいですね。
大切なのは情報のアップデート
思い込みや勘違いというのは、これまでの経験や自分の考えによって起こります。そのせいで「これは当たり前にこういう意味」と決めつけてしまい、情報の正誤確認が足りなくなりがちです。
大切なのは情報のアップデートや当たり前とされる存在を疑ってみることです。「私の時代はこうだったけど、今の子はそう考えないのかも」「これでうまくいったけど、うちの子には難しいのかも」など、自分が正しいと思い込まず、1度疑ってみると活路は見出しやすいです。
まとめ
ヴィゴツキーの社会構成主義は、比較的新しい概念です。ただし現在の教育現場では重要視される考えで、「昔と今はなんだか違うな」とママが考える根底にこの概念があることも多いでしょう。
思い込みや周囲の評判によって物事を決めつけるのは、実はもったいないこと。子どもの自由な発想力や想像力を生かした子育てをするために、正しく社会構成主義を理解し、少しずつ考え方を柔軟にしてみましょう。
【参考】
【社会構成主義】対話を重ねて家庭の文化を作り発展させる | 心理カウンセリング大阪・北摂・吹田
社会構成主義とは?社会構成主義で組織風土・評価を見直そう|HRコラム
ある会社に「全然仕事ができない人」がいた。実際には人事が見た人物像や業務成績には何の問題もない。しかし、周囲の人間が仕事ができない人と評価するため「仕事ができない人」という評価に疑問を持たなくなっている。