出産・産後で変わる女性たち ~【公認心理師】が脳のもたらす影響をお伝え~

「出産してから変わった」ママ自身が自分に対してそう思うこともあれば、 パートナーであるパパからそう言われる(思われる)こともあるでしょう。

妊娠、出産という大仕事を経て、子どもの「親になる」ということは大変なこと。生活の変化もたくさんありますが、ママの身体や脳自体も変化していることがたくさんあるのです。

こちらの記事では、そんなママの身体や脳の変化についてお伝えします。

出産前後のホルモンの変化

出産前のママ

多くの女性が出産前後のホルモン量の変化からメンタル面にも影響を受けます。

妊娠中はエストロゲンとプロゲステロンというホルモンが急増します。ママの身体を出産のために準備したり、赤ちゃんを守る働きがあるこれらのホルモン。出産を境に激減します。

突然のこのホルモンの変化によって、脳の働き方まで変わり、情緒不安定になったり、不安孤独を感じやすくなるのです。

ただでさえ、初めての育児や初めての二人育児など、赤ちゃんという新しいファミリーメンバーが加わり、環境が変わる中での生活。戸惑いや上手くいかない歯がゆさの上に、このホルモンバランスの影響。これではママがイライラしてしまったり、大きな不安や孤独感に悩まされても仕方のない状況なのです。

人間とチンパンジーの子育ての違い

チンパンジー

人間に最も近い類人猿と言われているチンパンジー。700万年前に共通の祖先から分かれて進化をとげてきた人間とチンパンジー。 このチンパンジーと人間の子育ての決定的な違いをご存知でしょうか。

それは、人間は他者と協力して共に子どもを育てる「共同養育」をし、チンパンジーは母親が5年間子どもに付きっきりで一人で育てることです。 人間は「共同養育」をするためにも、ホルモンの影響で不安や孤独を感じやすくなっているのです。不安や孤独を感じたら、仲間を頼りたい、一緒に育てたいと思うからです。

しかし、現代の日本社会は核家族化が進み、頼れる親族や近しい付き合いの人が周りに住んでいない家庭がとても多くあります。こんな現代で子育てするママ達は、親せきやもともとの知り合いではなくても、地域のサービスやネット上での繋がりやサービスを上手く利用していくことが必要かもしれません。

育児を経験することでママの脳は変わる

脳

ママは誰でも生まれつき「母性」を持っているのでしょうか。 これに関しては、こんな研究があります。

出産経験がなく、日常生活で赤ちゃんに関わることのない女子大学生に、3カ月間、週に一度2時間、赤ちゃんのお世話をする体験をしてもらうと、脳の活動する部位に変化がありました。赤ちゃんと触れ合う時間を経験した女子大生の脳は、育児に関わる脳の部位(子どもに愛情を感じやすくなる)が活発になったのです。

また、男子が同様の育児体験をした時にも、脳の活動に変化が見られました。女子学生ほどではないにせよ、育児体験をすることによって、子どもに愛着を感じる部位などの脳が活性化されるようになったのです。

「母性」は生まれつき全ての女性に備わっているものではなく、妊娠・出産と言いう経験、そして出産後の育児の経験を通して脳の活動分野も変化していき、より子育てに適した脳の働き方をするようになるのです。

そして、この脳の活性化の変化は男性にも起こるものです。パパが子育てに積極的に関わることで、パパも子どもにより一層愛着を感じ、子育てがしやすい脳に変化するのです。

夫婦の離婚率とオキシトシン

離婚

子育て世代の離婚件数のリサーチによると、最も離婚率が高いのは(それも、圧倒的に高いのは)、0~2歳の子どもを持つ夫婦で、次に多い3~5歳の子どもを持つ夫婦の1.5倍以上にもなります。

赤ちゃんが産まれたばかりで育児に忙しい、猫の手も借りたいママの状況のはずなのに、こんなにも離婚率が高いのにはオキシトシンの影響が考えられます。

オキシトシンと聞くと、出産の際にお産を進める作用や、母乳を作るのを助けてくれるホルモン、または「愛情ホルモン」などということを思い浮かべる人もいるかもしれません。

オキシトシンは、確かに愛情を深める効果がありますが、それはママにとって快い状況では、という条件がつくのです。 逆に、ママにとって不快な感情がある時には、攻撃性が高まるということが実験からわかっています。

産後、これからの子育てで一番協力してもらいたいはずのパパが忙しくて不在の時間が多かったり、何か手伝ってもママのして欲しいものと違う場合には、ママが返ってイライラしてしまうことがあります。

授乳中のママであれば、オキシトシンが多く分泌されており、普段以上にイライラがパパへの攻撃へとなってしまうのです。

一方で、ママにとって「快」の感情下では、愛情が深まります。授乳中の赤ちゃんを抱っこしているママは、可愛い赤ちゃんとの絆を深めることになります。 パパがママの話を聞く、気持ちに寄り添って聞く時間も、ママにとっては「快」の時間になります。

オキシトシン効果を上手く活用して、家族の愛情を深めていきたいですね。

まとめ

上記のように、ママは意識や気持ちの中で「ママになる」と同時に、その脳の働き方やホルモンの影響により、身体的に感情的に変化していることもたくさんあるのです。

これらの知識をもとに、幸せ家族になるために、どう家族として子どもとパパと関わっていくのか、それを大切にしてあげたいですね。

【参考文献・サイト】

「最新科学でハッピー子育て」NHK出版

ABOUT US
久保田 由華心の相談室 こころラボ 代表
公認心理師、臨床心理士。
NY州立大学にてメンタルヘルスカウンセリングの修士号修得。NYCのNPOにてアシスタントサイコロジストとして勤務後帰国。
大学、クリニック、心理相談室等で勤務。7000ケース以上のご相談を担当。

心の相談室こころラボを設立し、カウンセリング以外にも子育てママのためのセミナーやスクール、ママのためのオンラインコミュニティを運営。