「育児が完璧にできない」「他のママはあんなに素晴らしい子育てを楽にできているのに」こう思って自分への評価が下がり、育児の辛さを実感するママは多くいます。心当たりのある方もいるかもしれませんね。
そんな頑張るママに紹介したいのが、小児科医であり精神分析家のウィニコット(Winicott D. W.)の子育て論です。数多くの理論を提唱したウィニコットの子育ての中でも、「ほどよい母親」について今回は詳しく解説します。
ユニークな乳幼児心理を生み出したウィニコット
ウィニコットはイギリス出身の精神分析家・小児科医です。幼児の心理に対する専門家であり、小児科医という立場から見た理論を数々提唱しました。
ウィニコットが活動していた時代のイギリスでは、現代も良く知る心理学の大きな流れが世の中をあっ関していました。2つの学派によって分けられており、ひとつはフロイトの提唱する「自我心理学派」もうひとつはクラインの「対象関係論」です。心理学者たちはどちらかの立場について、その視点での研究を進めていましたが、ウィニコットはどちらの学派につくこともしませんでした。
あくまで小児科医としての立場を一貫して保ち、独立学派として活動したのがウィニコットです。基本的な考えは「子どもと母親は1つの単位、共生するもの」としており、親子の情緒関係を理論づけていったとされています。
ウィニコットが提唱したこと
ウィニコットは主流の学派に属さない、個性的=ユニークな乳幼児心理を生み出したとされています。また、その提唱は数多く存在します。例えば、
- 程よい母親:母親の理想像を理論づけるもの
- 移行対象:母親と子どもが一体化し精神的にもつながるという論
- 情緒発達理論:人間の成熟は社会化という意味も含んでいるという論
など。このブログでもさまざまな乳幼児心理学をご紹介しましたが、ウィニコットは誰かに似ているという論はあまり持ちません。この中でも「ほどよい母親」というのは現代のママにとって育児のヒントになる部分が多く、頑張りすぎのママこそ参考にして欲しい論でもあります。
ウィニコットのほどよい母親とは?
ウィニコットのほどよい母親について、詳しく見ていきましょう。
完璧な母親を目指さない理論
ほどよい母親とは、完璧な母親を目指さないものです。赤ちゃんが生まれてからママは育児に一生けん命になります。子どもが泣けば目的を探って泣き止ませ、自分が体調不良でも子どもの世話を第一に考えます。夜も昼も関係なく、完璧に育児をこなすのが理想的なママ像だと思う方もいるかもしれません。
ですが、時にはママが失敗することもあります。ママ達も「すべての場面において、完璧に対応できるか」というとそうではないのが現状でしょう。ウィニコットは、こういった「時には赤ちゃんの欲求に対して的外れな対応をしたり、反応するのが遅れたりするのがまさに母親で、こうした飾らない育児こそが親子に欠かせないものである」と理論づけました。
いくら赤ちゃんの頃にすべての欲求を即座に満たしてくれる環境が整っていても、それは長く続きません。大きくなって幼稚園や保育園に入ると、おうちと同じように「好きなタイミングでご飯が出てくる」「好きなことだけできる」というわけではありませんよね。乳児のころから人間のありのまま、不完全な母親を見せていると、子どもは外の世界を知ることができると提唱しています。
赤ちゃんが学ぶのは「人間は万能でない」こと
決して完璧ではないほどよい母親から赤ちゃんが学ぶのは、「人間は万能ではない」ことです。その通りママはロボットではないので、「お腹が空いた!」と泣く赤ちゃんに対して「おむつかな?」と異なる行動も起こします。
これは育児の間違いというよりも、普通のママが取る行動そのものです。誰がお世話をしても同じことが起こるでしょうし、その姿から子どもも「大人がすべて正しいわけじゃない。人間は万能じゃない」と学べるとウィニコットは伝えています。
子どもの依存心は必ず満たしてあげる
ではママはありのままで、自分本位で子どもを無視すべきなのかというと、そうではありません。子どもがママを求める声には出来るだけ答えてあげて、十分すぎるほどの愛情を注ぎましょう。子どもが泣いているけれど、「ほどよい母親を目指したいから」といって抱き上げないのは違います。ママは、意識的に「頑張らなくてもいい」のがほどよい母親です。
もちろん、子育てに情熱を注いだりこだわりを持つことが悪いわけではありません。ただ、最近の子育て事情はママに完璧を求める傾向があり、そのママへの期待に応えようと必死になり辛さを覚えるママが多いのも実情です。やりすぎているママは肩の力を抜いて、ありのままの姿を子どもに見せてもよいのかもしれませんね。また、ありのままの子どもを愛すことで、親子ともに自己肯定感も育めます。
頑張りすぎていない?ウィニコットのほどよい母親を目指すために
ウィニコットの理論は、「理論」というと難しく思えますがほどよい母親に関してはとても簡単です。今育児に熱中しすぎているママは、「そういってもどこの手を抜いていいのかわからない」と思うかもしれませんね。
そこで、ウィニコットのほどよい母親を目指すために、頑張りすぎないようにする意識の持っていき方をご紹介します。取り入れられる部分だけを参考にしてください。
「~べき」思考が癖になっていないか
完璧主義な方には、共通する思考があります。それが「○○すべき」というものです。
- 母親なんだから我慢するべき
- 離乳食は手作りするべき
- 子どもは〇時には寝かせるべき
この~べき思考はママ自身を自分で傷つけ、育児をさらに困難なものにします。また一度考えると癖づきやすい思考でもあり、つい「○○すべきでしょう」と思い込んでいないかは立ち止って考えてみましょう。
母親だからといって必ずしもすべてを諦める必要はありません。周りと異なる育児でも、親子間が幸せで満たされていればそれだけでOKです。自分を許し受け入れることも、ほどよい母親でいるためには大切です。
「ママだから」が口癖になっていないか
こちらも~べき思考と同じ考えです。ママなんだから○○はしちゃダメと自分の個性を殺していないでしょうか。確かに子育てが始まると「ママ」には違いありませんが、母親である前に一人の人間です。ママだからといって自分に無理をさせないように、自分にも優しくできる気持ちが持てるとベストです。
自分自身を縛り付ける「ママだから」も危険ですが、特に周りから「ママなんだから○○しないとね」と押し付けられていないかにも注意しておきましょう。例えば子育ての先輩である母親から言われたことでも、ウィニコットの理論を借りると親子は「ママと子ども」で一つの単位です。その、「ママなんだから」は正しいのかどうか、ママが心地悪く感じたなら従わなくてもよいのかもしれません。
何より子どもを愛しているか
ほどよい母親とは「手抜きする母親」「怠惰な母親」ではなく、子どもにとってありのままの母親を指します。これまでマインドや力を抜き楽に育児をすることの大切さをご紹介しましたが、何よりも第一にしたいのは子どもを愛することです。不完全でいいのだからといって育児を放棄するのではなく、頑張っているけれど足りない自分や子どもに対して、許し受け入れる気持ちを持ちましょう。
まとめ
ユニークな幼児理論を展開するウィニコット。育児に辛さを覚えるママにとっては、はっと目が覚める思いのする論もあるかもしれません。心理を勉強する方や教育関係の方でないとなじみのない人物ですが、ママにとって役に立つ考えもたくさんあるのでぜひ参考にしてくださいね。
【参考】
「ほどほど」であるということ:ウィニコットの「ほど良い母親 Good enough mother」 | 中野カウンセリングオフィス