「お友達の気持ちを考えて」「そんなこと言ったら、○○ちゃんはどう思うかな?」
育児の最中では、こんな言い聞かせをママたちは良くすることと思います。この思いやるという行動は、心理学では他者視点取得という課題として研究されています。
ビジネスシーンでも必要なスキルと言われている他者視点取得を、今回は育児の場面でどう活用するかを考えてみましょう。他者視点取得とは何か、他者視点を学ぶには、子どもに学んでもらうにはどんな声掛けをしたらよいのかをご紹介します。
他者視点とは?他者視点取得を分かりやすく解説
他者視点とは、簡単にいうと「相手の立場になって考える」ことを指します。思いやりや気持ちを慮るというのは、大人にとっては必要なスキルであり子どもにとっても育んで欲しい心の成長のひとつですよね。
この他者視点取得とはどのようなことをいうのか、もう少し詳しく紐解いていきましょう。
「自分と相手の考え方は違う」という思考のこと
他者視点とは、自分と相手の違いを正しく認識したうえで、相手の立場になって考えることを指します。当たり前のことかもしれませんが、自分と他人の境界線があやふやになるのは大人でもよく見られるものです。
- なんで言葉を尽くしているのに、この人には伝わらないんだろう?
- 私が楽しい気持ちなのに、なぜこの人は怒っているんだろう?
- 子どもはこう思うはずなのに、なぜうちの子は違うんだろう?
こうした心の中で自然と前提にしてしまう自分の偏見は誰でも持っており、他人の意思意向を勝手に決めつけて対話してしまうことがあります。これを防ぐために他者視点が必要で、他者視点を会得することを「他者視点取得」と呼びます。
子どもの他者視点取得は、幼児期に確立されるものです。3歳ごろまでの子どもは「自己中心性」があるとされ、自分と他人との区別がつきません。しかし、心が成長するとともに他者視点を理解し、他者視点取得を進めていきます。
7~11歳ごろに他者視点への理解が深まる
子どもの他者視点取得に注目してみると、まず生まれたばかりの赤ちゃんは「ママ」の認識もあやふやです。次第に自分の存在に気付き、そしてママやパパ、家族の存在を認識します。
集団生活が始まる3歳ごろになると、同じ年齢の子との交流も始まりますが、この時点では先ほど説明した自己中心性が優位です。自分が中心となる認識で、他人の気持ちは自分と同じとして考えているのが幼児期の特徴。他者視点への理解はまだまだ始まったばかりで、他人を思いやれるのは7~11歳の小学生のころと言われています。
「思いやりの心って、意外と遅い時期に認識するのかも」と思ったママも多いかもしれません。その通り思いやりや他人の立場になって考えるというのは難しいことで、子どもはゆっくりと他者視点取得を進めていきます。
ママにとっても大切なこと
子どもには思いやりのある子になって欲しいというのはママ共通の願いかもしれませんが、他者視点取得は大人になっても難しさを感じるものです。自分の中では十分に思いやったつもりでも、他人にとってはありがた迷惑になることも珍しくありません。だからこそ、ビジネスシーンでも他者視点というスキルは重要視されるのです。
そして、他者視点が活かされるのは育児の場面でも起こります。つい子どもと過ごしていると、「ママの意見は子どもが理解して当たり前」「反抗するのはありえない」と我が子とママの間でも他者視点が欠けてしまいがちです。子どもは一人の人間であり、ママとは違う考えを持つことをしっかり大人が理解してあげなくてはなりません。
他者視点を学ぶには?
他者視点は、心の成長とともにいつかは獲得するものです。ですが、大人でも他者視点が抜けがちなことがあるように、「他人を思いやる」という気持ちはしっかりと学んで身につけていかなくてはなりません。
また、誰しもが完璧に他者視点取得できるわけではありません。ADSなど生まれつき他者視点が不足することもあれば、養育環境が整わず他者視点取得が遅くなることもあり、課題は多いです。
そこで、他者視点を子どもが学ぶために必要な声掛けや遊びをチェックしてみましょう。
ごっこ遊びで立場の異なる人になりきる
他者視点を学ぶのにおすすめの遊びとは、「ごっこ遊び」です。子どもの遊びとして定番のバリエーションで、子どもが役割を持つことが大切です。
例えばおままごとなら、子どもがパパになったりママになったりと、他人の立場になりきることで、家族の中でどう振る舞うかを遊びながら学べます。可能であれば大人も参加し、立場を入れ替えながら遊べるとよいですね。
お買い物ごっこでも、「買う人」「レジの人」と立場を疑似体験できます。自然と「レジの人なら丁寧な言葉で」「買う人はきちんとお金を支払ってお礼を言う」という社会の仕組みを身につけることができるでしょう。
絵本やアニメで他人の気持ちを学ぶ
絵本やアニメでも、他人の気持ちを学べます。特に絵本は子ども向けに優しい言葉でわかりやすく描かれているので、子どもにとっても取り掛かりやすいです。
ポイントは絵本やアニメを一緒に見るママが「この子は今悲しかったね」と答えを与えるのではなく、子どもが「この子は今悲しかったのかな」と反応を見せたときに返事をしてあげることです。なにかを教える教育的な意図を持った絵本やアニメでなくても、子どもが楽しく読めるもの・見られるもので構いません。どんな感想を持ったのか、どう感じたのかを繰り返し考えることで、「他人はどう思うか」を学べます。
「○○ちゃんはどう思ったかな?」とママが声掛けを
例えば子ども同士で喧嘩したとき、「喧嘩しないで!」とその行為だけを止めるのではなく、「なぜ喧嘩したらいけないのか」を子どもに考えてもらうのも、他者視点を学ぶ一歩です。
- 「バカって言われたら、○○ちゃんはどう思った?」
- 「お友達のおもちゃを取ったら、お友達はどう思うかな?」
- 「さっき○○って言われて、ママは悲しかったな」
と感情を素直に話しながら言い聞かせをしていきます。このとき答えは出ても出なくても構いません。子ども自身が他人の立場を考えることが大切です。
ママもできる他者視点を取得するトレーニング
次は、ママもできる他者視点取得を進めるトレーニングをご紹介します。子どもが何を考えているのか分からない、子どもと分かり合えていない気がする…というのは、ママが「子どもの立場になって考える」ことが不足しているのかもしれません。
今日からできる他者視点への学び方を見ていきましょう。
想像力を鍛えるトレーニングをする
想像力を鍛えるトレーニングとは、ドラマや映画の中の登場人物の中で誰に感情移入できるのか、それはなぜかを自分なりに正しく認識するものです。自分が作品を見てどう感じたのか、実際に共感できなかったと思ったらそれはなぜなのか、想像力を働かせることで他人の立場を考える練習ができます。
最後までお話を聞く
話の一片だけを聞いて「私はそうは思わない」「この人とは相いれない」と思うのは、他者視点が不足している証拠です。まずは自分がどう思ったのかは一度留めておき、他人の話は最後まで聞く癖を付けましょう。
簡単なことですが意識するだけで他人の思いが良く分かるようになります。またきちんと話を聞く姿勢は他人から見ると好印象で、信頼感を上げるためにも効果的です。
まとめ
他者視点取得とは、できていそうで大人でもできないことが多い「思いやる」という認識です。子育てでうまくいかない、子どもの考えが分からないというのは、他者視点が不足しているからかもしれません。
他者視点取得とは、子どもにとっても重要な要素ですが、大人になってからでも自分次第で認識を改めることはできます。我が子を理解するために、ぜひママからも他者視点取得を意識してみてくださいね。
【参考】
幼児期における他者視点取得能力の発達と社会性との関連 田中里奈 清水光弘 金光義弘
ピアジェの心理学を知れば、子どもの発達がよく分かる!? 有名な「4つの発達段階」をまとめてみた
ごっこ遊びを通して他者視点を知ろう – オレンジスクール・オレンジスクールピコ|放デイ・児童発達支援