みなさんは他人と接するとき、「感じ悪く見えない態度」「相手の気持ちを推察する言い方」を無意識に心がけているかと思います。これは、人を思いやる心の理論が働いているからです。
しかし、育児をする中で我が子は自由に振舞い、ときにはお友達やきょうだいと衝突することもあり「いつから思いやりは育つの?」とヒヤヒヤすることもあるでしょう。
今回は他人の気持ちを考える心の理論に注目します。何歳から心の理論が理解できるのか、子どもの心を健やかに育むにはどうすればよいのか、詳しくチェックしていきましょう。
心の理論とは?
心の理論とは、大人なら普段何気なく行う「他者の心を読み取りながら行動する」ことを指します。コミュニケーションには必ず心の理論が必要であり、社会性のある大人であればいきなり家族のように他人に接したり、突然怒りながらコミュニケーションをとったりすることはないでしょう。
けれども、子育てをしていると子どもにはこの「心の理論」が抜けていると感じます。なぜなら、心の理論は小さなうちから芽生えゆっくりと経験を積み、育っていくからです。
まずは心の理論はどのようにして身につけられるのか、発達の仕方をご紹介します。
サリーとアンの心理学テスト
心の理論とは、簡単な心理学のテストによって図ることができます。心理学の世界では有名なサリーとアンの心理学テストを見ていきましょう。
この条件を提示したうえで、2つの質問をします。
- ボールは箱の中とバスケットの中どちらにありますか?
- ボールで遊びたいサリーは、箱の中とバスケットの中どちらを探しますか?
みなさんも考えてみましょう。ボールが隠されているのは「箱の中」、ただしサリーはボールを移された事実を知らない(見ていない)ため、バスケットの中を探します。これを正しく答えられると、心の理論が身に付いていると言えます。
サリーとアンの課題はやや長く、言葉だけでは理解が難しいこともありますよね。その場合はスマーティー課題といって、
チョコレートの箱を用意し、何が入っているかを子どもに尋ねる。子どもは「チョコレートが入っている」と答えるが、中を開けると鉛筆が入っている。その上で「じゃあ今いないパパにこの箱をあげたら、パパは何が入っていると思うかな?」と尋ねる。
という簡易的な課題方法もあります。この質問では、「パパはチョコレートが入っていると思う」と答えられれば、「今ここにいないパパから見る世界」と「自分が知っている世界」の区別がついており、心の理論が身に付いていると言えるでしょう。
子どもが理解するのは4歳以降
ご紹介したサリーとアンの課題で、正しく答えられるのは実は4歳以降です。つまり未就園児では課題の内容が理解できたとしても、「見たものそのままを理解する」ために子どもは「サリーは箱の中を探す」と答えます。
心の理論が理解できるのは4歳以降であり、4歳を過ぎても理解できない子ももちろんいます。心の理論が芽生える=他者からの視点が理解できるのはこれまで3歳ごろと言われていましたが、最近の研究では1歳半から子どもには「思いやり」が芽生えるとわかっています。
自閉症の子は他者理解が薄いことも
4歳を過ぎたけれど、子どもが心の理論を理解しない…というのも、実はおかしなことではありません。生まれつきの特性で他者理解が年相応にできない、時間がかかるという子もいますし、そもそもサリーとアンの課題が理解できないことも、大人でも他者理解が薄い方もいます。
他者理解が難しいのは自閉スペクトラム症の子が当てはまるでしょう。この場合はママが心の理論を理解していても「うちの子はこの言い方だと理解しない」と頭に入れておき、特別な言い聞かせが必要になります。「急いでいるから早くご飯を食べて!」ではなく「〇時までにご飯を食べよう」など直接的・具体的な言い方で、その子に合わせた声掛けをしましょう。
心の理論を生かした子どもへの接し方
では心の理論はどのように身に付ければよいのでしょうか?心の理論を理解した上で、どんな形で子どもの心を育てていけばよいのか3つのポイントを解説します。
3歳以下の子に「お友達の気持ちを考えて!」は通じない
3歳以下の子につい「そう言われて○○ちゃんはどう思うかな?」と難しい言い聞かせをしていないでしょうか?子どもの悪気ない振る舞いや言い方の根底には、心の理論が未成熟という点が挙げられます。
もうお姉さんなんだから、お友達の気持ちぐらいわかるでしょう!と叱り方を間違えていないか注意しましょう。ご紹介したように「4歳ごろから徐々に他者理解が進む」ので、4歳になった瞬間に周りと円滑にコミュニケーションが取れるわけではありません。他者理解はあるのに、お友達とトラブルが起こることも当然あります。
子どもは「他人の気持ちは分からない」ママは「他人の気持ちを考えなさい!(答えは言わない)」とコミュニケーションは交わらないまま平行線をたどります。ここで親子の意見が対立し、「子どもが言うことを聞かない」となるのです。
4歳をすぎたら少しずつ「他人の気持ち」を考える
心の理論はゆっくり育つため、4歳を過ぎたら少しずつ他人の気持ちを考えましょう。心の理論は自分だけで獲得できるものではなく、ママや周囲の人間関係から少しずつ学ぶものです。
ママが普段の声掛けで、「早くお片付けしてくれないと、ママは間に合わないから悲しいよ」「そういう言い方をすると、ぷんぷんって気持ちになる」「今、○○って言ったのはママが悪かったね。ごめんなさい」など感情を言葉にすると子どもの経験につながります。
他人の気持ちを考えるのは、実際に経験しなくても絵本でもOK。「このとき、どんなことを思ったのかな?」と登場する人物や動物に対して、子どもに意見を聞いてみてもよいかもしれません。
親子で一緒にゲームや遊びをする
触れ合いの中で育つ心の理論。一人遊びだけじゃなく、お友達や親子で遊ぶ中でも他者理解は深められます。特にルールのあるかけっこやかくれんぼ、おにごっこは簡単にできて他者と自分の区別を付けられる遊びのひとつです。
かくれんぼをするなら、おにをする子の視点に立って「見えない場所」「わかりにくい場所」を選ぶ必要があります。最初はうまくいかないかもしれないため、ママがサポートする形で楽しめば、遊びながらストレスなく心の理論を身につけられるでしょう。
「うちの子は思いやりが育たない…」子どもの心を育てる方法
心の理論とは何かを知ると、我が子に対して「うちの子は思いやりが少ないかも…」と不安になることもあるでしょう。年齢相応の育ち方を全員が辿るわけではないため、心配は必要ありません。
とはいえママの働きかけで子どもの他者理解がぐっと進むこともあるので、子どもの心を育てる方法をご紹介します。
心理学に注目する
心理学とは、人間の心がどんな成長をするのかを学問として提示するものです。育児と心理学は離れたもののように感じますが、心の成長段階をサポートするママの生活にとっては「知っておいて損はない」ことばかりです。
まず、たった今子どもはどんな心の成長をしていて、課題や得られるものが何かを知っておきましょう。思いやりがない!と感じる場合、ママの声掛けは正しいでしょうか?経験が少なく、心の理論が身に付かない環境なのかもしれません。
心理学を知ると、その瞬間の子どもの「今」に適した接し方がわかります。意外と育児のヒントが見つかるので、ぜひチェックしてみましょう。
ママが答えを与えない。考える癖をつける
「そういう言い方をすると、お友達は怒るに決まってるでしょう!」など、ママがすぐに答えを与えていないでしょうか?親の背中を見て子は育つというように、ママが答えを与えるとそれが正解だと子どもは信じ、それ以上他者への理解を深めようとしません。
おすすめしたいのは、例えば子どもがお友達と喧嘩したとき、頭ごなしに「喧嘩しないで!」と言うのではなく
- なんで○○って言い方をしたのかな?
- お友達に○○って言われて、どう思った?
- お友達は今どう思っているかな?
と子どもに質問を投げかけてみることです。
他者理解といっても、完全に他人を理解するのは大人でも不可能。けれども、考えて思いやることはできます。そのため、子どもにはぜひ考える癖をつけてあげましょう。ママも実践できるとより理想的です。
まとめ
心の理論とは、コミュニケーションには欠かせないもの。子ども特有の自由なふるまいは、心の理論を身につけることで次第に消えていきます。
大切なのはママが心の理論を正しく理解し、子どもに適切な課題を与えてクリアできるかどうかです。知っておくと育児が楽になることもあるため、ぜひ子育てに役立つ心理学に目を向けてみてくださいね。
【参考】
心の理論とは?獲得年齢や課題例、トレーニング方法をわかりやすく解説 – Psycho Psycho
サリーとアンは同じお部屋で遊んでいます。サリーは、大好きなボールをバスケットの中に入れました。サリーはお部屋から出て行きました。アンはボールをバスケットから取り出し、箱の中に移しました。サリーはお部屋に戻ってきました。