子育ての方法や育児本の中で、たびたび話題にのぼる「アドラー心理学」。アドラーは子育てに対する考えでも有名な論説が多数あり、育児の参考にしているママや教育者も多いです。
その中でも「課題の分離」とは、親子関係に密接した思考法のひとつ。この課題の分離を意識するのは大切とは言われていますが、発達障害のある子に対しては特別なアプローチが必要です。
今回は課題の分離とは何か、また発達障害など特性のある子に対してはどう課題の分離を生かすのかを解説します。
この記事では以下のことがわかります▼
- 課題の分離とは何かをわかりやすく解説
- 発達障害のある子に対してどう「課題」を設定するのか
- 「課題の分離」にある問題点の解決法
アドラー心理学の課題の分離とは
まずは、アドラー心理学の「課題の分離」について解説します。課題の分離とは「自分の課題に他者を介入させない」「他人の課題に介入しない」ことを指しますが、ここで大切となるポイントは以下の3つです。
- 課題
- 介入
- 分離
それぞれを解説していきます。
育児に起こる課題とは?
まずは課題の分離ともあるように、課題についてです。課題とは「どうにかしたいと思ったこと」を指します。育児だと、
- お片付けしてね
- 宿題をしなさい
- 早く寝なさい
など、さまざまな課題が毎日上がっています。この課題は「誰がどうにかしたいと思ったのか」を見極めることが大切です。
例えば宿題をしなくて困るのは子ども。お片付けをしなくて散らかった部屋で困るのは、「子ども部屋なら子どものこと」「リビングなどの散らかりが気になるのはママ」と課題を詳しく考えると、課題はそれぞれ違う人に掛かっていることに気づけるはずです。
この「課題は誰のものか」を考えるのは実は難しいです。慎重に見極めないと間違えてしまう部分なので、ゆっくり考えてみましょう。
「課題に介入する」ってどういう状況?
では、次は「介入」について考えてみます。
他人の課題に介入するというのは、「他人の課題に入り込み、他人が解決してしまうこと」を指します。特に親子の課題の介入では、「ママが宿題をしていないことを指摘し、宿題を出して子どもを机に向かわせる。たとえ嫌がったとしても、終わるまで机から立つことを許さない」とすれば課題の介入といえるでしょう。
ただ、こんな状況はママとしては「心当たりがある」と思うかもしれません。決して珍しいことではなく、実はよくある状況だからです。とはいえ、課題の介入はアドラーの課題の分離では推奨されていません。
なぜなら、介入して課題を解決すると、子どもがまたその課題に出会ったときに「自分で解決できないから」。子どもに生きる力をつけて欲しいと思うのなら、ママがいなくても自分で問題解決できる子になっておく必要があるのです。
分離するにはどうすればいい?
次は、分離について考えてみましょう。分離とは、言葉のとおり「課題は誰のものか」を見極めて、正しい解決者に解決をゆだねることです。つい口を出したくなりますが、すべてママが解決するのではなく「これは子どもの課題」と分けて考えるのが課題の分離といえるでしょう。
なぜ分離しなくてはならないのかというのも、理由があります。なぜなら課題の分離ができないと一生が「他者からの承認欲求に支配されたもの」になってしまい、簡単にいうと「他人から認められないと満足できない人生」になるからです。自分を認めるのは自分自身でないと、自己肯定感が低くなり幸福な人生が歩めません。
発達障害のある子に対する課題の分離
この課題の分離は、育児に生かされることが多いです。育児に生かす課題の分離に、子どもの特性や発達障害は関係ありません。
ですが、気をつけたいことがいくつかあります。特性のある子の課題とは、「多動を落ち着かせたい」「みんなと同じように生活して欲しい」というものになるかと思いますが、これを「子どもの課題」として親が切り離すのは少し間違っています。
それはなぜか、発達障害のある子に対しての課題の分離についてチェックしてみましょう。
その課題は本当に「子どもの課題」?
発達障害のあるなしにかかわらず、アドラー心理学の課題の分離とはすべての育児に活用できます。しかし、特性のある子の子育てでは課題の内容が少し異なりますよね。
- 多動なところを直して欲しい
- こだわりを少なくして欲しい
- ほかの子と同じように「普通に」して欲しい
など、さまざまな課題があるでしょう。
「課題」を立ち戻って考えたいのですが、課題とは自分が「何とかしたいこと」です。上記に挙げた課題とは、本当に子どもの課題なのでしょうか?
実は、この課題はすべて「親の課題」である可能性が高いです。本人が直したい場合は子どもの課題ですが、「多動で迷惑がかかるのは親」「こだわることで大変な思いをするのは親」など、親が課題を作っていることが多いでしょう。
もし子どもが問題視する場合は、子どもに課題の乗り越え方を教えるサポートが必要です。親の課題であれば、課題の解決は介入ではありません。子どもがその課題を「問題視」しているのかはよく向き合って考える必要があります。
課題の分離とは「放っておくこと」「好きにさせること」ではない
課題の分離を見てみると、「子どもの課題に親は介入しないのだから、好きにさせておく」という意味合いに捉えられがちです。しかし、課題の分離と親の責任を手放すのは違います。
特に特性のある子の場合は、子どもが課題に気づいていない場合が多いです。そのため、課題をママと一緒に見つけてあげて、どう乗り越えるかを考えるとよいでしょう。
課題の分離で勘違いされがちな「放任主義」との違いですが、子どもにとってあえて課題という壁を与えるこの思考法は、決して放っておくことが正解ではありません。また、先ほども紹介したように子ども自身が課題に思っている場合は、親が適度に助けて課題を乗り越える必要があります。
子どもの特性を生かしてサポートすることが大切
子どもに特性がある限り、課題の分離をするには一人で乗り越えられないことも出てきます。これは発達障害にかかわらず、課題の分離だからといって完全に親が手を放すのは難しいという背景も影響しています。
ママができるのは、子どもに合わせたサポートをすること。例えば長々と叱ると子どもに伝わらない場合は端的に言う必要がありますし、絵や図で説明したほうが子どもに伝われば手段を変えなくてはなりません。これは「課題に介入している」わけではなく、親が子どものやりやすいように「導いている」ため、子どもによってやり方を変えましょう。
その適切な方法を知るには、適した療育が必要です。
課題の分離は難しい!やりきるコツとは?
課題の分離とは、どんな子どもに対してでも難しいもの。やってみると「親の責任逃れ」や「放任主義との違い」に悩むことも多いです。
そこで、課題の分離を行うコツをご紹介します。
今一度「誰の課題?」と思い直す
先ほどもご紹介したように、「誰の課題?」という軸はぶれやすいです。特に発達障害によって子どもに「できないところが多い」と感じるのは、子どもの課題ではなく親の課題が多いでしょう。
では、親は何も言ってはならないのかというとそうではなく、その課題を乗り越えるために「子どもに伝わる言い方」や「どう過ごせば生活しやすくなるのか」といった工夫を知る必要があります。これを療育や適切な支援によって補うため、課題の設定は重要だといえるでしょう。
子どもが自分で課題に気づくのは「成人後」
子どもの課題なのだから親は何も言わない!と決めるだけなら簡単です。しかし、子どもは課題に気づくことは難しく、大人でも自分の目標や乗り越えるべき課題を見つけるのは難しいものです。
「これをやらなくては成長できない」といった課題を自分で気づくのは、成人したあとだといえます。課題の分離をそのまま捉えて子どもを見放すのではなく、一緒に考える姿勢こそが重要です。
少なくとも年単位で意識したい課題の分離
課題の分離は一度意識しても、すぐに忘れてしまいます。さらに課題の分離を実行してもすぐには良い結果に向かわないため、親としては年単位で向き合う必要があるでしょう。
そう考えると、かなりの根気が必要です。すぐに実行して思考をがんじがらめにするのではなく、長い目で見て子どもと向き合うとよいでしょう。
まとめ
課題の分離とは、育児によく活用されますが難しいものです。発達障害がある子の場合は、特別なケアも必要になります。
しかし、子どもの課題すべてを親が背負うとそれは「やりすぎ」であり、なおかつ子どもの課題を親が増やしてしまう状況も考えられます。今一度アドラー心理学の課題の分離を正しく理解して、育児や親子関係に生かしてみてください。
【参考】
【事例で解説】「課題の分離」で組織課題を解決する! 〜アドラー「課題の分離」の重要性とリーダーに求められる具体的なアプローチとは?〜
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