自我と自己はどう違うの?人との関わりに必要な言葉を心理学的に解説

自我と自己

育児中に起こる子供の大切な成長のひとつ、「自我の芽生え」子供は成長とともに「自分自身」に気付き、「わたしはこう思う」「わたしはやりたくない」と自己主張を始めます。

生きていく以上、大人も子供もたくさんの人と関わり合うこととなるため、「自我」と「自己」はどちらも大切です。

今回はよく混同して考えられがちな自我と自己の違い、また成長する上で子供の自我と自己をどう見守っていくのかを解説します。自我と自己を認識できれば、より親子にとって心地よい生き方ができます。

自我と自己とはどう違う?

「自我」と「自己」。どちらもよく聞く言葉ですよね。この自我と自己には正確に考えると違いがあります。しばしば同じ意味として使われていますが、今一度自我と自己の違いを知っておきましょう。

自我とは

まずは自我について、見ていきましょう。

イヤイヤ期のころによく聞く「自我の芽生え」

自我は4~5歳までの子供を育てるママならよく聞く言葉かもしれません。2歳ごろ、子供は第一次反抗期をむかえいわゆる「イヤイヤ期」に入りますよね。自分の主張が強くなり、育児はこれまで以上に思い通りに進まなくなります。

思い通りに進まないのもそのはずです。なぜなら、「イヤイヤ」するのは子供が「ママと自分は違う。そして自分は自分である」と自我に気付いたから。これを自我の芽生えと呼ぶことがあります。

自我は大人も子供もみんなが持っているものです。「わたしである」という認識そのものが自我で、自我が芽生えた子供は「自分の意見」として自己主張を始めます。

自我とは「アイデンティティ」のこと

自我は英語で「Identity(アイデンティティ)」と言います。これは自分が考える自分のことです。

「自我」とは、「自分の心の中心にあるもので、自分が自分である意味」のことです。

「自我」と「自己」の違いとは?分かりやすく解釈  意味解説辞典

自分が何者であるのかは、無意識にみなさん気付いていますよね。生まれた時から自我は持ってはいますが、「自分の考える自分」を表現できるようになるのは2歳ごろです。赤ちゃんの頃はおしゃべりもできず自分で歩き物を取ったりもできません。泣く・笑うことで大人に「赤ちゃんの自我:わたしがやって欲しいこと」を伝え、生きています。

自我の芽生えとは、正しく言うと「自分が自分であることを主張できるようになった」です。イヤイヤ期はとにかく悩みが尽きず大変なイメージがありますが、子供の性格が悪くなってしまっただとか、わがままを言うようになったわけではありません。子供の自我が成長しているのです。

自己とは

自我の芽生えの中でも子供は「自己主張」を始めます。すると、自我の芽生え=自己の芽生えと考えてしまう方もいるかもしれませんね。次は、自己について自我との違いをご紹介します。

自己とは「パーソナリティ」のこと

自己は英語でいうと「Personality(パーソナリティ)」。自我と同じように意味合いは「自分」であることに違いはありません。

しかし、自我が「自分の思う自分」であるのに対し自己は「他人から見た自分、自分と他人を通しての自分」を指しています。自分と他人の違いと考えればわかりやすいかもしれません。

「自分の認識する世界は自分1人だけでなく、他人との相互関係も通じて成立してくる」

「自我」と「自己」の違いとは? アイデンティティとパーソナリティの意味  リバータリアン心理学研究所

パーソナリティと聞くと「個性」という言葉が思い浮かぶ方もいるかもしれませんね。その通り「周りはこうかもしれないけれど、わたしはこう」といった周りの目線も含めた意味での自分です。

では子供の自我の芽生えで引き起る自己主張を考えてみましょう。子供だって「今はご飯を食べる時間」「お片付けはやらないといけない」と心の中では理解しています。しかし、自我としては「やりたくない。まだ遊んでいたい」のです。これを自己主張すると「イヤイヤ」が始まります。

成長するにしたがって、自己は「周りはこうかもしれないけれど」と周囲から見た自分を認めて主張をコントロールできます。

自己形成にはたくさんの経験が必要

自己は「周囲から見た自分、他者と自分の違い」だと説明しましたが、自己をしっかり形成するにはたくさんの経験が必要です。大人も子供も社会の中で生きていく人間である以上、どうしても自己主張ばかりでは収まりがつかないシーンもありますよね。これを「他人から見た自分」を把握して認め、自己形成するにはたくさんの経験が必要です。

小さな子供だと自己形成はまだまだ先です。社会的な繋がりが強くなる青年期になると、「自分の社会的役割は何かな」「自分は何者なのかな」と他者と自分について悩むようになります。就職の際に自分の能力や就きたい仕事を考える「自己分析」をした方もいるかもしれません。このように自分と他人とを深く考え、行動することで自己形成は進んでいきます。

何歳で自己が確立するかは、人それぞれ。大人になっても自己形成ができていない方もいますが、言い換えれば「大人でも自己形成はできる」のです。

自我と自己「どちらが大切」ということはない

自我と自己のそれぞれの意味、違いが分かったら「結局どちらが大切なの?」と思うかもしれません。これには、どちらが大切か・どちらを重視すべきか、ということはなく、どちらも大切なことなのです。

心理学の中でも自我心理学派・自己心理学派に分かれる

心の育ち方、考え方を学ぶ心理学。心理学の世界でも自我心理学派と自己心理学派に分かれています。敢えて「どちらを重視するべきか」を考えると、心理学は基本的に「自分と周りの人との関わり方、家族を含める他者とどう生きていくか」のために使われる学問であるため、自己心理学派の方が今の時代には合っているのかもしれません。自己は、社会を介して自分を見つめるものだからです。

とはいえ、なら自我を無視していいのかというとこれは違います。自分が自分であることは、誰にも認められるものでなく、あくまで「わたし」しか認識できないからです。自我を失えば自分がやりたいこと、自分の意見を失ってしまいます。だからこそ、自我と自己、どちらを重視すべきかというのは一概には言えません。

自我が強い=わがままな性格ではない

自我と自己の意味を知ると、「自我を大切にというけれど、すると子供が自分主体の性格になるのでは」と心配になるかもしれません。自己と同じように、自我にも「自我が強い=わがままで手が付けられない性格」といった少し勘違いされそうな認識が広まっています。

ここでは「自我の強さ=自己主張」と「わがまま」の違いを見ていきましょう。

引用元:わがまま?自己主張?子どもの主張が強くなってきた時に知っておきたいこと – 子育て&教育ひと言コラム – 伸芽’Sクラブ – 受験対応型託児所 –

上の図を見てみましょう。自己主張とは「お友達のおもちゃだと知ってはいるけれど、今そのおもちゃで遊びたいな」という自分の意見です。分別が付く場合は「お友達が今遊んでいるからあとで貸してって言おう」「お友達のおもちゃだから我慢しよう」となりますが、小さな子供だと「わたしも遊びたい!」と自我を貫き通してわがままをしてしまいます。

自我が強いのはわがままなのではなく、主張できる自己をしっかり持っているということ。先ほども説明したように、成長するにしたがって「自己主張する場面と、そうではない場面」が理解でき、自己を調節できるようになるのです。

自我と自己の形成は子供にとって大切な成長過程

ここまで自我と自己の違いを解説しました。育児中のママにとっては「自己主張はわがままではなかったんだ」「イヤイヤ期はしつけを厳しくする時期ではなかった」といくつか気付きがあるかもしれません。

自我と自己の形成は、子供にとって大切な成長過程です。「我が子のために何かをさせてあげたい」「より早く自我を認識させたい」と思うママ多いかもしれません。しかし、子供の自我と自己は誰のものでもなく子供自身のものです。親がコントロールできるわけではありませんし、親の育て方で自己形成や自我がしっかり育まれるわけでもありません。

大事なのは「今は子供の大切な成長時期」とママが理解してあげて、子供を思いやり何より「子供を信じて」毎日向き合うことが大切です。子供を信じて我が子の自我と自己を大切にすることで、親子の信頼関係が生まれます。この信頼関係こそ子供の将来に大きなメリットをもたらすものです。

まとめ

自我と自己、同じ意味合いで使われている言葉ですが両者には異なるニュアンスが含まれています。また、子供の自我と自己を大切にするのなら親は「見守る姿勢」を徹底しましょう。

子供を信じて、一人の人間として子供の自己を認めてあげることが大切です。

【参考】

「自我」と「自己」の違いとは?分かりやすく解釈  意味解説辞典

「自我」と「自己」の違いとは? アイデンティティとパーソナリティの意味  リバータリアン心理学研究所

ABOUT US
【監修】久保田 由華久保田 由華
公認心理師、臨床心理士。
NY州立大学にてメンタルヘルスカウンセリングの修士号修得。NYCのNPOにてアシスタントサイコロジストとして勤務後帰国。
大学、クリニック、心理相談室等で勤務。7000ケース以上のご相談を担当。

心の相談室こころラボを設立し、カウンセリング以外にも子育てママのためのセミナーやスクール、ママのためのオンラインコミュニティを運営。