みなさんはマーラー(Mahler M. S.)をご存じですか?精神科医のマーラーは子どもの心の発達について、ママにとっては興味深い理論を多数発表しました。
この理論は教育関係者や保育士、心理に携わる人でないとなかなか触れることのないものですが、育児において子どもの心がどう成長していくのかを知るのは大切なことですよね。そこで今回は、マーラーとはどんな人物なのか、マーラーの提唱する「分離固体化理論」とは何かを分かりやすくかみ砕いて説明します。
マーラー(Mahler M. S.)とは?
マーラー(Mahler M. S.)とは、オーストリア出身の精神科医です。特に小児精神分析の専門家で、わかりやすくいうと「子どもの心の発達を調べる研究者」と呼べるでしょう。
マーラーはさまざまな理論を提唱しましたが、中でも育児中ママにとって興味深いのは「分離固体化理論」です。この理論について、少し詳しくチェックしていきましょう。
分離固体化理論を提唱した
分離固体化理論とは、3歳ごろまでの乳幼児の心の成長過程を指します。ざっくりと説明すると、生まれたばかりの赤ちゃんはママをはじめとする大人がいなくては生きていけず、特に多くの時間を過ごすママに愛着を持ちます。次第に周囲が認識できると、後追いや人見知りが起き、時には「ママじゃないとイヤだ!」とべったりなこともありますよね。
そんな子どもでも、成長するとママを卒業する時期がやってきます。「こんなに甘えん坊なのに、私がいなくても幼稚園に通えるのかな?」「一体いつ精神的に自立するんだろう?」と疑問に思うママは多いのですが、この過程を理論づけたのがマーラーの分離固体化理論です。
この分離固体化理論は3歳ごろまでの精神発達を表していて、時期によって取得する感情や精神的な壁を乗り越えないと、うまく社会性が身に付かないとも言われています。よく「3歳児神話」という言葉を耳にしますが、これは「3歳まで母親はきちんと面倒を見ないと、子どもが悪く育つ」というもの。後ほど詳しくご紹介しますが、マーラーの分離固体化理論では区切りとされる年齢が「3歳」になっているため、3歳児神話と同列に語られることもあります。
マーラーの分離固体化理論とは
「そうはいっても、3歳なんて小さな子が精神的に自立するの?」と疑心暗鬼になるママもいますよね。そこで、マーラーの提唱した分離固体化理論について内容を紐解いていきます。
マーラーは母子の観察実験のすえ、「乳児はママと一体感を覚え、そののちに少しずつ離れていく」と結論づけました。分離固体化というと漢字ばかりで難しいような気もしますが、母子の分離が行われ、それぞれで自立する固体化と考えてみましょう。
この分離固体化理論は3つの段階に分けられ、年齢とともにステップアップしていきます。最終段階の分離固体期はこの理論のメイン。そのため、この中でも4つの段階に分けられています。
正常な自閉期
まずは生まれてから始まる正常な自閉期。他人と自分の区別がつかず、自分の世界には自分しかいない自閉期を過ごします。
この時期の欲求は「他人にこう思って欲しい」というものではなく、「お腹が空いた」「おむつを替えて」という生理的欲求がメイン。自分の内側に閉じこもっている時期で、生後1か月ほど続きます。
正常な共生期
次は共生期です。空腹や眠気は自分の内側から発され、痛みやおむつを替えて欲しいという感触は外部から発されるという、「自分と世界」の区別がつくようになります。生後6か月ごろまで続く共生期ですが、まだ自他の区別はついていません。
つまり、「世界の中で生きる存在が自分」ということが分かっていても、自分とママの区別はあやふや。ママと共生している時期といえるでしょう。赤ちゃんの心はまだまだ成長途中です。
分離固体化期
さて、この時期にマーラーの提唱する「乳児はママと一体感を覚える」段階から自立し、「少しずつ離れていく」ようになります。この時期は4つの段階に分かれるので、ひとつずつ見ていきましょう。
分化期(5~9か月ごろ)
分化期では、他人と自分との区別がつくようになります。赤ちゃんは首がすわって寝返りをはじめ、ズリばいやハイハイができる時期ですよね。手を自由に動かし器用さも出てくることから、物を掴んで口に入れるなどの観察もできるようになります。
この成長によって世界を知り、ママと自分は違う存在であると意識が生まれます。同時にママと他人の区別もつくようになり、ひどい後追いやママがいなくなると泣き出す、人見知りをするといった行動も目立つようになるでしょう。
練習期(10~16か月ごろ)
練習期には歩けるようになる子も多く、身体の発達からママと離れる時間も少しずつ多くなるでしょう。ただ、離れられるのはママのことを何が起きても味方になってくれる安全基地だと認識しているからこそで、ママを信頼していると冒険心も生まれどんどん現実世界を探索し始めます。
最接近期(16~25か月ごろ)
1~2歳の子どもは、自由に一人歩きができ行動範囲も広がります。しかし、身体的に成長しても心理はまだママへの依存が大きく、そのギャップで分離不安を起こすこともあるでしょう。3歳前となると幼稚園や保育園に通う検討をするママも増え、「離れるとひどく泣いてしまって困る…」と悩むことも多い時期です。
体の成長とは裏腹に心理的にも不安定になりがちで、ママと共生していた時期に戻りたい感覚がある子もいます。この時期の心の揺らぎや不安定さを頭に入れておき、子どもを安心させる声掛けを積極的にしたいものです。
再固体化期(25~36か月ごろ)
マーラーの分離固体化理論の最終的な段階です。自他の区別がはっきりついて、依存の対象であったママを「一緒にいなくても心の中で大切に思う」ことができるようになります。登園しぶりがひどくても、このように少しずつ子どもの心は成長し、いずれ自立していくのです。
ただ子どもに正しく生きてもらうためにお世話をするのではなく、このような感情的なかかわりも大切です。また、子どもの精神的な成長段階を知ると「今はこんなに大変でも、子どもは頑張って乗り越えようとしているんだ」とママも前向きに捉えられるかもしれません。
マーラーの子育て論で大切な3歳児期。3歳児神話とは?
冒頭にお伝えしたマーラーの分離固体化理論と同じように語られる3歳児神話。マーラーの理論は3歳に完成するため、3歳までの時期がとても大切というメッセージは確かに込められています。
ここからは3歳児神話とは何か、この3歳児神話は正しいのかママとしてどう受け止めればよいのかを解説します。
3歳児神話とは?
3歳児神話とは、
「子どもが3歳になるまでは母親が子育てに専念すべきであり、さもないと成長に悪影響を及ぼす」
子育て心理学で「3歳児神話」を検証! どこを守り、どこを捨てるか? | SODATTE(そだって)−子育てとお金の情報サイト−
と言われています。3歳までママがきちんと子どもを見ないと、マーラーの分離固体化理論に反してしまい、正常な自立ができないと暗に言われているものです。確かに3歳までの子には母親が欠かせない存在ですが、「すべき」という考えはやや乱暴な印象を受けますよね。3歳までに起こした育児の間違いは取り返しがつかない、という風にも捉えられ、現代の育児からすると3歳児神話はネガティブな印象があります。
3歳までに「○○すべき」ではない
マーラーと3歳児神話はよく同列に語られますが、これはマーラーの固体化理論とボウルビィの愛着理論が歪曲して広まったためと思われます。どの理論でも「この時期の子どもの成長が大切」と言っているのであって、3歳までに子どもを自立させないといけないだとか、保育園に早くから預けるべきではないだとかの主張とは異なります。
まず、ママは「○○すべき」という考えを持たないようにしましょう。家庭の数だけ事情があり、例え心の成長を十分に見られなかったと後悔するママでも、3歳以降の親子関係を良好に築けばカバーできます。
子どもの社会性は意外と早く開花する
3歳児神話には大きな欠点があります。それが、マーラーの分離固体化理論でも語られる「子どもと愛着形成するのはママだけ」という点です。実際にはそんなことはなく、子どもはママ以外のお友達やきょうだい、パパや親戚、先生やご近所さんなど多くの人とかかわりながら生きていきます。
3歳児神話はママの働きだけを強調しすぎており、子どもは意外と早いうちに社会性を開花させます。あまりにも子どもに依存するのは、ママ自身が子どもへの依存を深めてしまうため、子どものありのままを見守るようにしましょう。
まとめ
少し難しい印象のあるマーラーの分離固体化理論。わかりやすくいうと、子どもがママを卒業する心の過程が記されています。今幼児期の子を育てているママは、いずれ成長する子どもをどう見守って育てるか、ヒントになることもたくさんあるので取り入れられることから参考にしてくださいね。
【参考】
【母子の心理学】マーラーの分離-固体化理論をざっくり解説 | サイコロブログ
子育て心理学で「3歳児神話」を検証! どこを守り、どこを捨てるか? | SODATTE(そだって)−子育てとお金の情報サイト−